土砂の安定勾配は、道路土工指針などにも示されるとおり1:1.0~1:1.5となっています。
 土砂の土質状況によって、あるいは高さによって勾配は最終決定されるものですが、この勾配は植生工等の簡易な法面保護を併用した場合と注記されています。
 一方で、自然の山地斜面って、この勾配よりも急ではないでしょうか。明らかに土砂が分布している斜面においてもです。
 
 その点について、私なりに考察してみました。
 (誰が考えても、そうなるよ、って話なのですが)
 よくわかるのが山地の急斜面ですので、これを事例に考えます。
 山地の急斜面って、前述の道路土工指針等の標準勾配と比較して急です。場合によってはとっても急です。45°を超える斜面勾配でも表面に土砂は分布しています。
 その状況を写真で撮っていましたので添付しました。
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(現実に45°を超える勾配で表土、土砂層は分布している)

 このように、急斜面であっても表土や土砂層は分布しているのです。
 これを可能?実現?現実?としているのが植生の存在なのであろうと私は考えます。
 併せて、道路土工指針等の標準勾配は、新たに切土等で築造される法面を対象としており、自然斜面を対象にしていないという事もあるでしょう。しかし、斜面防災業務の検討においては自然斜面の現状勾配と道路土工指針等の標準勾配を対比して安定性がどうなのかを考察することは良くあることで、検討上は切土法面勾配も自然斜面勾配も同様に扱っている状況であり、ここでは別問題とします。

 では植生がどのように斜面勾配に影響を与えているか?
 これについては、実は研究されている方々がいるので本質を突き詰めたければそれら研究の方々の発信(論文)等を参照するのが良いと思います。
 ここでは、あくまで私の推論を述べるに留めたいと思います。

 結論としては、植物や樹木の根による表層保持能力の効果であると推察します。
 当然だろうって御指摘もあろうかと思いますが、植生の能力(機能)を数値として評価し設計に適用するということはされていないのでプラスアルファの効果として存在することを頭に留めておかねばなりません。
 さらに発展した見方をすると、植生工の植生がちゃんと法面に活着しないと法面劣化や表層崩壊に発展するリスクがあると言うことになります。法面の機能上の結構重要な部分を占めている恐れが高いです。岩盤であってもスレーキングリスクや凍結融解による解放等のリスクに影響するでしょう。
 現に、法面植生の劣化とともに崩壊に発展したという事例は多いのでは無いでしょうか。
 (岩盤法面では無理して緑化しようとして裸地となり表層崩落に発展する等)
 もう1枚、写真を追加します。
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 (表層崩壊で表土が崩落したもの。先の写真の上部にあたる滑落部)

 これを見てわかるのが、滑落崖の縁に植生の根が露出し太めの根が切断されている状況も解ります。
 この崩壊斜面の部分は低木類を主としていた斜面で、もともと根の入りが少なかったことも想定されますので、それにより表土部分がスコンと抜けたとも思えます。
 また、大雨で滑落した箇所でありますので、高降雨強度により土塊が飽和してせん断強度を失ったのだろうと推察されますが、根の露出や切断された根を見る限りは、植生の根が崩壊を防ごうとして張力を発していたと推測できます。

 いずれにしても、斜面の安定に植生が果たす役割は大きく、植生がしっかりしているとプラスアルファの崩壊防止機能を発揮できるため、施工後の維持管理段階も含めて植生が維持されるように設計することが大事であるという見方で間違いないと思います。