私の業務案内にある急傾斜地崩壊対策工の設計は、民家の裏山などの危険斜面を対策するためのもので、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)を民家等の居住区域から外す(解除)事業になります。
 「区域を外す=生命を守る」ということなので、正確には区域を外すのが目的ではないです。
 事業としては、生命を守るための事業で、設計業務の目標は、居住区域にかかる土砂災害特別警戒区域の解除です。目的と手段のような関係です。

 さて、タイトルにもあるのですが、この設計、一見、簡単そうに見えるのですが、案外と難しくてやっかいな相手です。
 対策の方法にはさまざまありまして、いろいろと現場条件によって選択する必要があります。

  ・発生源対策(山を覆って崩壊等が生じないようにしてしまう)  
  ・待ち受け対策(斜面の下方や裾部で防護擁壁や落石防護柵等を構築して崩壊土砂を受け止める)
  ・上記の方法を組み合わせる複合対策(擁壁と斜面保護を併用する)
  
 が基本です。
 ここで、私が設計した現場を事例に説明しますと、手前にある擁壁工が待ち受け対策工です。
 そして、後ろに見える鉄筋挿入付き吹付法枠工が発生源対策となります。
 (この発生源対策は、正確には仕戻し工なのですが、細かいことは抜きにしますね)
P9080196
(斜面を見る全景。手前が待ち受け擁壁、背面が発生源対策の法枠工)
(この背面の法枠工は、正確には仕戻し工ですが発生源対策と同じ思想、構造です)
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(擁壁背面の状況。ポケットが大きいのがわかります。ここに崩壊土砂を溜めます)

 擁壁+ストンガード(落石防護柵)の背後に大きなスペース(ポケット)がありますね。
 これが急傾斜地崩壊対策の特徴で、基準に定められた土砂量を溜められる容量が必要です。
 併せて、擁壁は土砂が崩れてくる流体力に耐えられ、かつ満杯になっても倒れない性能が必要です。

 鉄筋挿入付き吹付法枠工ですが、斜面を覆って崩壊しないようにしています。鉄筋挿入は法枠工の交点に3m程度地中に刺さっています。
 法枠工とともに地中に挿入されている鉄筋(地山補強材)の曲げせん断能力とグラウトの定着力で崩壊を防止しています。
 これらの対策は、目的や設計思想が若干異なりますが道路沿いの法面でもよく見かける工法です。
 気にしていないだけで、結構、身の回りに存在していると思います。

 ちなみに、発生源対策オンリーでのケースの写真もありましたので添付します。
 設計時に、擁壁を採用すると基礎地盤が軟弱のため地盤改良や別途基礎工の採用が必要となり、結果、発生源対策(鉄筋挿入付き吹付法枠工)の採用となった現場です。30度以上の斜面勾配部分を全て被覆しています。緑化が進めば構造物は見えにくくなっていきます。
IMG_4332[1]
 まったく違う話ですが、水田が綺麗ですよね。

 それから、参考までに特殊なケースの対策工も例示しておきます。
 施工スペースに問題があったり、地盤の特性の問題があったりした場合は従来工法を採用できません。このケースでは例に示したインパクトバリアのような特殊工法の採用が検討対象となります。
 ちなみに、写真の区間の隣を私が設計しました。まだ施工されていません。
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P4060007
(高エネルギー吸収柵型の待ち受け対策=インパクトバリア)

 さて、本題です。急傾斜地崩壊対策の設計が意外に難しいのは何故??
 斜面の高さによって崩壊する想定土量が基準で定められていますが、当然ながら斜面高が増えれば土砂量も多くなり、流体力(崩壊土砂のエネルギー)も大きくなります。擁壁背面のポケット容量を大きくしなければなりません。
 その時、大きな問題となるのが斜面を大きく切り込んで擁壁を設置しなければならないことです。平地側へ出せば楽なのですが、住居等があり前には出せないのです。
 よって、斜面を切り込んだところを法面工で覆う(発生源対策)という二度手間のようなことをしなければならなくなるのです。
 さらに状況を面倒にするのが施工性です。バックホウや土砂搬出のダンプトラック、コンクリート運搬車、クレーン等が出入りできるのか?等、検証したうえでの工法選択(設計)になります。
 そこには「コスト」という課題もあり、公共事業ですから必要な仕様を最も安価に調達することが求められますので、比較検討して最も安い工法を選択しなければなりません。
 その結果、施工性まで踏まえると、斜面を切り込む必要がある擁壁で待ち受けるよりも、斜面を構造物で覆ってしまった方が安い!ってこともあり、ケースバイケースとなってしまいます。
 従来工法で手詰まりとなると、最後の手段は参考に示しましたインパクトバリアのような製品頼みとなります。
 
 これらの検討、書くのは簡単なのですが、実際やる方は非常に煩雑で大変なのです。
 自然の山を相手にするので、同じ検討にはなりません。その都度、あたらいしい条件で検討しなければなりません。
 しかし、面倒な仕事ほど出来上がった(現場が完成)時の達成感は大きいので、その時、報われたなぁって満足感とともにヤル気を再充填できるのです。
 建設コンサルタントの仕事は、達成感、満足感が無ければ長続きしないので重要なことなんです。
 今後も、達成感、満足感を感じられるよう、誠心誠意、頑張らせて頂きます。